「はと急便。その1」「夜の鳩をご利用になりますと、 通常の3倍の料金をいただくことになりますが…」 がらんとした午後のそのオフィスの中に 男の声がこだました。 空いている鳥かごは きっと 昼間便の仕事に出ている鳩のものだろう。 日の翳ったほうの部屋にいる鳩たちは 皆、身じろぎもせず、黙って眠っていた。 置物と見まがうような 美しい、毛並みに見とれていたわたしは 「はい、わかりました。」 とだけ返事をした。 「夜に鳩を飛ばすことは とても危険を伴います。 鳩は、もともとトリ眼ですので、 用心に用心を重ねて、眼を凝らして飛行するのです。」 「しかし、ここの鳩たちは、 夜間飛行も可能なように訓練されております。 夜中に、お手紙を運ぶ…それは お客様にとって、何か必ず、特別の意味があるものと 私たちは考えているからです。 ここにいる鳩たちにも、そのことは十分知らせてあります。」 夜中に手紙を運ぶ鳩…。 その存在を知ったのは最近のことだった。 ジャンル別一覧
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